ソーシャルワークの変容 ジェネラリスト・ソーシャルワークへの展開

斉藤みちる


ソーシャルワーカー 癒しのイメージ
ソーシャルワークの形成過程

ソーシャルワークは19世紀後半産業革命のさなか生活の諸問題を解決する活動から発展、20世紀に体系化されました。

 

メアリー・リッチモンドは1889年にボルティモア慈善組織協会(COS)の職員となり、友愛訪問に従事しながら、その専門家の必要性を痛感しました。やがてCOSの友愛訪問におけるケース記録を元にケースワークの知識や方法を「社会診断」(1927年)に著し、「ケースワークの母」と呼ばれています。

 

他方、COSの活動において、地域組織化の実践がコミュニティ・オーガニゼーションとして、また、セツルメント活動がグループワークとして発展しました。

 

1950年代には、H.パールマンはソーシャル・ケースワークをソーシャルワーカーとクライエントの関係において行われる問題解決の過程であると整理して「ソーシャル・ケースワーク――問題解決の過程」を著し、ケースワークの構成要素を「四つのP」(次に説明します)として説明しました。

 

※四つのPとは、人(Peron)、問題(Problem)、場所(Place)、過程(Process)の四つ。

 

20世紀後半には多様なソーシャルワーク理論が形成されました。困難の状況をどう把握するか、解決に向けたより有効な働きかけはどのようなものか、それはいかなる価値や考え方に基づくものかなどをめぐり、他の学問分野から影響を受けました。地域や時代の生み出す問題への対応の必要性も強まったことともつながり、理論的発展をみましたが、一方では、1960年代はさまざまな理論が乱立した時代ともいわれています。

 

そうした状況に対し、一体的で総合的な援助のあり方が重視されるようになりました。

 

ジェネラリスト・ソーシャルワークへの展開

20世紀後半の106070年代の米国では、ベトナム戦争や貧困の再発見(次に説明します)などの混迷した社会情勢を受け、個人の生活上の問題も複雑化していました。

 

※貧困の再発見とは、ハリントンが『もう一つのアメリカ』の中で、経済的繁栄の陰に失業や人種差別などによる膨大な貧困が存在していることを指摘し、これが貧困の再発見。

 

ケースワーク、グループワーク、コミュニティ・オーガニゼーションの三つの方法がそれぞれの流れをくんで発展してきたのですが、それらの専門分化が過度に進みました。その結果、各自の働く機関に特有の専門知識や技能だけに特化した専門家が増え、ソーシャルワークの存在意義が問われるようになったのです。このためソーシャルワークの統合化を図り、多様な方法を統合して幅広い人々へ支援できるソーシャルワーカーが必要だと考えられました。

 

1974年、全米ソーシャルワーク教育協議会は大学で身につける実践アプローチをジェネラリスト・アプローチとすることを承認しました。これは、ニーズを包括的、全体的な視点から把握し、対象に応じた計画、実施、評価をすることを目指すもので、多様な実践現場で応用が可能な方法とされました。三つの方法の共通基盤を確立させ、再構築するという考え方に立脚するものでした。

 

1970年に入ると、システム理論(次に説明します)の影響を強くうけました。

 

※システム理論とは、人工物から生物、生命のような自然現象、社会集団などすべての現象をシステムとして捉えて説明するもの。1950年代後半には、自然科学、社会科学の領域だけでなく経営理論や心理学などに幅広く影響を与えた。

 

人間を最小のシステムとし、所属のグループやコミュニティに内包されていると捉えることによって、システムの変動とかかわりながら変動し続ける状況にある人間、環境の中の人間という視点をソーシャルワークに提供しました。

 

さらに、1980年代ですが、エコロジカル・ソーシャルワークが強い影響を与えました。人間を「場に存在する人間」あるいは「環境の中の人間」として捉えて、いわば人間と環境との接点、あるいは両者の相互作用に着目して支援を組み立てるというものです。

 

これらの流れの中から、1990年代にはジェネラリスト・ソーシャルワークへの展開が本格的にみられるようになりました。

 

ジェネラリスト・ソーシャルワークでは、「人と環境の相互作用」に着目し、それにかかわる広範な領域を構造的に理解することによって、より多様な役割を担ってソーシャルワーカーは、援助を展開していきます。人間を一個人としてばかりではなく、地域社会を構成する要素あるいはシステムとして捉え、地域社会との相互作用にも意識を傾けて支援を行うことを特徴としています。

 

我が国においても、地域福祉を主眼とする現代では、福祉施設の中で支援が行われていた時代に比べ、多数の人が地域で生活できるようになりました。だけれども、地域での社会生活を円滑におくるためには、多方面にわたる多様なニーズがあります。このために、個々の人のニーズの把握や支援計画のあり方も変化を求められています。個々の人が地域で暮らしていけるような地域社会との関係調整や、利用できる社会資源の活用と開発、地域社会への働きかけ、福祉施設であればそれが地域社会の拠点となるための諸活動までも必要とされることから、ジェネラリスト・ソーシャルワークの視点での支援を学習する教育体制の構築が求められているといえます。

 

コミュニティのような水の波紋
ジェネラリスト・ソーシャルワークの意義と特徴

ジェネラリスト・ソーシャルワークでは、ソーシャルワークの共通基盤のもとで、実践において、統合的に援助が展開されることを特徴としています。個人、グループ、コミュニティは、いわばサイズの異なるシステムです。ジェネラリスト・ソーシャルワークでは、個人は常に複数のシステムとの相互作用において生活しているという視点にたち、より良い作用をうながすように複数のシステムのいずれかの局面を捉えて介入していきます。

 

もう一つの特徴は、利用者主体という考え方です。ソーシャルワークを学ぶ人は「問題解決」という表現によく出会うと思いますが、誰が解決するのかというと、ソーシャルワーカーではありません。ソーシャルワーカーの役目は、自助努力では解決できない問題に直面している人が、より良い生活に向かってその人が自ら努力していけるよう援助することです。ソーシャルワーカーは、利用者に「こうしなさい」と指示するわけでもありません。

 

ソーシャルワーカーは「利用者自身が問題解決できるようにするには専門職としてどうすればよいか」という視点から支援を考えます。利用者自身が自己肯定感を強め自ら現実を直視して支援のプロセスに参加、参画し、ケア計画を立てて解決に取り組んでいくことにこそ価値があります。したがって、利用者の力を引き出していくための「エンパワーメント」や「ストレングス」の概念が鍵となります。

 

これらの理論や実施モデルに共通する特徴は、援助が必要な人と、その状況に対する見方にあります。それは、何らかの能力の不十分さや、環境面での何かの不足状態というような、できないことや足りないことに注目する見方ではありません。その逆に、その人や周囲の環境が「できること」、すなわち、その人や、環境の「力」や「強さ」を重視するのです。その人とその人の環境がもっている問題解決可能性を、援助者が見出して。尊重することを援助活動の規定に据えています。

 

 

 

 斉藤みちる プロフィール

社会活動家/「みんなの社会科」管理人

その傍らオラクルカードを中心とした占いもしております。ヒット記事『陸上自衛隊レンジャー訓練』。福祉力検定3級。

Twitter @tikyuuhattenn