若い世代の孤独死

田中伸明
孤独死を心配する独身女性

 

誰にも看取られず、死後何日も発見されない「孤独死」が最近問題となっている。年間で3万人、一日100人以上が社会と断絶した状態で死を迎えているというから、深刻だ。しかも、高齢者だけでなく、20代~30代の若年層、40代~50代の壮年世代にも孤独死は他人事ではないと聞く。この現象は一体何を意味するのだろうか?

 

高齢者だけでなく、働き盛りで社会との接点も多いはずの若者や中年世代まで孤独死の傾向があるのはなぜか。それは雇用状態の変化や未婚率の増加といった社会現象と無縁ではないだろう。

国立社会保障・人口問題研究所の調査(2010年度)によれば、「一生結婚するつもりはない」と答えた人(1834歳)の割合は男性で9.4%、女性で6.8%となっており、いずれも年々増加傾向にあるという。結婚に希望を持てず、独り身の気楽さに幸せを感じる価値観が蔓延しているのだろうか。

また、「年功序列・終身雇用」といった日本式の労働体系を見直す動きも顕著で、転職を繰り返し、非正規で働く傾向も若い世代ほど多くみられる。正社員という縛りの中で働くことに息苦しさを覚え、自ら派遣社員やパートアルバイトの道を選んだり、フリーランスという形態で自分の好きなことだけやっていく人も増えている。

 

雇用状態の多様化と、結婚しない若者の増加。この二つの現象で共通して言えることは、「誰からも縛られず、自由で気楽な生き方をしたい」という個人主義的な価値観が幅を利かせてきたという時代の変化である。家族がいて当たり前、組織に属し、誰かと一緒に汗を流して働くことが当然だった時代はもはや昔日の古い遺産として淘汰されようとしているようにも見える。

 

家族を持つことすら煩わしいと考える人が、地域とのつながりや社会活動への参加を積極的に行うとは考えにくい。会社勤めを嫌悪するほど協調精神のない人が周辺住民と日常的にコミュニケーションをとって交流を深めるなんてほとんどあり得ない。そんな「他者に背を向けて生きる若者」がある日事故や突然の病気などで「ポックリ」いけば孤独死という事態を招くのは自然の成り行きと言えるのだろう。

また、常に死が身近にあり、そうなったときの身の処し方を考えている高齢者であれば未然に対処できる割合は高いかもしれない。しかし若者ほど死への意識が希薄なのはいうまでもなく、死後の後処理に対する想像力も欠如している。家族や会社、地域と社会といった、それまで普通に生きていれば自然と出来上がる「天然セーフティーネット」を自ら拒めば、その網からもれて最後は孤独の闇にくるまれる現実は決して絵空事ではない。

 

では、このまま若者の孤独死は増加の傾向を辿るのであろうか? 時代の変化、価値観の変化には為すすべもなく日本社会はそれに従うしかないのか?

 

先に結婚をしない若者が増えたというデータを紹介した。しかしこれはある一定の時代における特別な現象面ということも添えて言わなければならない。なぜなら、2011年の東北の震災が発生して、結婚する若者や家族の絆を大事に思う人が増えたという現象面も一方で存在するからだ。

また、結婚に対する意識調査も、景気の状況によって変わってくる側面もある。総務省の調べでは、安定した収入がある人ほど結婚してもいいと考える人は多いということだ。だから一概に結婚を忌避している人ばかりとはいえないのも事実である。

 

時代が変わって価値観の相対化が進み、家族や社会との関わりに重きを置かない若者が増えたという見方はある意味では正しいだろう。しかし時代が変わって価値観が変わったということは、また何かのきっかけでその価値観は変わるかもしれないことも意味する。あるいは、時代状況の変化で単に現象面でその傾向が見られるだけで、実は価値観そのものは変わってないのかもしれない。震災によって家族の絆の大事さが分かり、結婚する若者が増えたという事実がその一例だろう。

 

平安時代を生きる人たちは、まさか貴族社会が崩壊して武士が天下を握るとは思わなかっただろう。江戸時代を生きる人たちは、封建制度が崩れて四民平等の社会が到来するなんて想像もしなかったに違いない。でもそんな中でも最も大事なものというのは変わらずに生き残ってきた。日本社会ではそれが家族の絆だったり、他者との関わりを大事にする和の精神だったり、現在蔓延している個人主義とは相反する、日本古来の伝統的価値観、または美意識といっていいかもしれない。それらは長い歴史の中で育まれてきた賜物であって、変えようとして変わるものでもなく、別な何かが生まれて無くなるものでもない。日本人が存在する限り、万古不易のものと考えていいかもしれない。

 

「景気不安で結婚しない人が増え、独り身の気楽な生活に満足する人ばかりになったから孤独死は今後もどんどん増えるだろう」というのは、今の時代だけの一部の現象だけ見た浅い見解かもしれない。昔の人だって、一人が気楽で、自由がよくて、誰からも束縛されず気ままに生きたいと思うはずである。当たり前なことや単純なことは時代に関係なく誰もが考えることである。でもそれ以上に大事なもの、残していかなければならないものというのを分かっていたから、今日の日本の社会があるともいえる。

 

もちろん若者の孤独死が増えていく場合も想定した社会保障の在り方、制度面における改善の取り組みを考えしっかりやっていくことも大事だろう。でもそんなことより、「価値観が変わったのか、現象面が変化しただけなのか」をはっきりさせて、これまでの歴史で私たちは何を一番大事にしてきたのか。そこに立ち戻ることも必要ではないかと思う。

 

 

 

□田中伸明

政治・歴史・文化・社会問題を中心にライター活動しています