なぜ……親が我が子に暴力を振るう理由

田中伸暁


授乳

 

イライラする、カッとなる、逆切れする……。どんないい人でもこれくらいの感情は起きて当たり前。でも、「暴力」という引き金を引くまでには、大きな障害があっていいはず。それが理性というものだけど、人によってはその理性の壁を簡単に乗り越える異常時も発生する。信じられないことに、その対象が、かわいいはずの我が子に向けられるという実態は、どう理解すればいいのか。

 

「犯罪心理学の基礎知識」というサイトによると、暴力を振るう人間というのは大きく2つに分類される。

 

☑「日常的に暴力を振るっている人」

☑「ストレス蓄積などで発作的衝動的に暴力を振るう人」

 

「日常的に暴力を振るう人」とは、性質的に切れやすい暴走族や暴力団などの犯罪集団のことを想像すれば分かりやすい。

「ストレス蓄積などで発作的衝動的に暴力を振るう人」は、普段暴力とは無縁な人でも、ストレスや病などで心身の状態が乱れ、乱暴な言葉を発したり、手をあげて誰かを傷つけたりといった行為に走る人が、これに該当する。

 

児童虐待に関係のある人は、この「ストレス爆発系」のほうだろう。

 

児童虐待に限らず、ストレスが高じて言動が過激になり、時として暴力に至ってしまうケースは誰にでも起こり得るだろう。ではもっと詳細に、親が子へ虐待を働く要因とその背景にあるものを探ってみたい。厚生労働省「子供虐待対応の手引き」にある「リスク要因を持つ家庭」では、児童虐待に至るリスク要因としてこんな例をあげている。

 

1)保護者側のリスク要因

・望まぬ妊娠や10代での妊娠など、妊娠の状況を受け入れがたい環境にあるとき。望んだ妊娠であったとしても、妊娠中に早産など何等かの問題が発生したことにより胎児の発育に悪影響が出て素直に愛情を注げないとき。

・産後うつ病など精神的に不安定な状況になったとき

・精神障害、知的障害、慢性疾患、アルコール依存症、薬物依存症などがある場合

・保護者が精神的に未熟なとき

・保護者自身が虐待を受けた経験がある場合

2)子ども側のリスク要因

乳幼児の子ども、未熟児、障害児、何等かの育てにくさを持っている子どもが生まれたとき

3)養育環境のリスク要因

・内縁者や同居人がいる家庭

・子ども連れの再婚家庭

・転居を繰り返す家庭

・親族や地域社会から孤立した家庭

・失業や転職の繰り返しなど経済不安のある家庭

・夫婦の不和や配偶者からの暴力など不安定な家庭

 

上の列記を見ると、いかに保護者、つまり親の側にリスクが多いのか分かる。妊娠と出産は、大きな希望を持たせると同時に、不安や戸惑いもつきまとう。子どもができたことで、それまでの日常と全く違う生活を送ることになるのだから、ストレスも当然あるし、不自由な面もたくさんあるだろう。そんな中で子育てという責任の大きい役目を負わされるのだから、「子を持つ」ということは予想以上に精神的な負担が大きい。

 

ここまで詳細に煮詰めてみると、子育てというのは「愛情」の一言では片づけられない複雑さがある。誰も、好きで我が子に暴力を振るっているわけではないのだ。

 

これらのリスクがあれば必ず虐待が起きる、というわけではないが、そのリスクががぜん高まるというのは事実だろう。

 

また、配偶者暴力との関連性について考えてみたい。

 

平成9年に東京都生活文化局が実施した、夫やパートナーから暴力を受けた経験のある女性52人への面接調査では、子どもがいたケース45件のうち29件において、子どもも暴力を受ける被害に遭っていたという。

 

また、内閣府が平成14年に実施した「配偶者等からの暴力に関する調査」によれば、夫や恋人から暴力を受けたことのある女性のうち、当時子どもがいた224人中、21%が子どもに対しても暴力があったと回答した。

また、妻や恋人への身体的暴行の経験があると答えた男性(494人)は、同経験がないと回答した男性(809)より、「18歳までに父が母に暴力を振るっていた」と回答した比率が10%も高かった。

 

この調査結果で分かるのは、配偶者に暴力を振るう家庭においては子どもが虐待を受けるリスクも高くなる、ということだ。

 

また、岐阜県のある自治体が行った「子ども虐待に関する母親の意識調査」によれば、1)望まない妊娠、妊娠中の管理が不十分な者では虐待の傾向が高い 2)育児不安が増すにつれて虐待の傾向が高い 3)母親であることに否定的である者、「子育てを負担に感じる」とした者では虐待の傾向が高い 4)「子どもを叱るときの自分を別人のように感じる」では「感じる」頻度が高くなるほど虐待の傾向が高い 5)「子どもが望み通りにならない、気の合わないこどもがいる」と感じている者程、虐待の傾向が高い 6)夫が子どもを粗暴に扱う傾向にあるほど母親の虐待の傾向が高い 7)母親が夫に「家事や育児をもっと協力してほしい」という気持ちが強いほど、虐待の傾向が高い 

 

虐待に走る母親の心理の実態がこれでよく分かる。しかし、逆をいうとこれらの中にこそ問題解決のヒントが隠されているのではないか。

つまり、1)望む妊娠をさせ、妊娠中の管理を徹底する 2)育児不安の解消 3)母親であることを肯定する 4)自覚をもって子どもを叱る 5)自分の望みを極力減らし、周りの子どもも受け入れる 6)夫婦ともに愛情をもって子どもと接するよう互いに協力する 7)夫ともっとコミュニケーションを図り、子育ての苦労も楽しみも分かち合う

 

これらの方向に親たちの心を近づければ、虐待は減るかもしれない。

 

 

 

□田中伸暁

政治・歴史・文化・社会問題を中心にライター活動しています

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