外国人から見た日本 ~いつまでも変わらないもの~

田中伸暁


浴衣のニャル子さん
這いよれ! ニャル子さんより

 

日本に深く関わりながら、日本人にその存在を知られていない外国人はたくさんいます。20世紀初頭に活躍したフランス人実業家のアルベルト・カーンもまたその一人でしょう。

 

カーンの残した功績と、日本の経済界や文化面に与えた影響ははかりしれません。彼の偉大な実績の数々は、以下に紹介する動画の中で流れる、美しい写真の数々によって表現できます。

 

カーンは、あらゆる世界に居住する人類の姿と生活を記録した「地球映像資料館」の設立を目指して、世界中にカメラマンを派遣して現地の様子を写真や映像に収める活動を始めました。その取材旅行も兼ねて1908年に来日したカーンは、同行したカメラマンに日本の風景やそこで生活する人々の姿を撮らせました。ほとんどが当時の最新技術を駆使したカラー写真で、美しい日本の原風景とそこで生活する当時の日本人のありのままの姿がこの動画であますところなく紹介されています。

 

同行したカメラマンのアルフレッド・デュテルトルは、都市化の進んだ街に住むオシャレな都会人より、日本の原風景が残っている、奥深い農村に住む人々を好んで被写体に収めていきました。緑豊かな田園風景の中で、和服を着た女性や無邪気に戯れる子供たち。静かながら、生活の躍動感と清らかな息づかいが聞こえてきそうな貴重な写真の数々です。

 

肌の色も言葉も、文化的な素養も民族的なアイデンティティも異なる、異教の地からやってきた得体のしれないカメラマンに対し、ここまで素の表情を見せる日本人もさることながら、何の警戒心も持たせず豊かな人間としての素顔を引き出すデュテルトルの腕前には脱帽するところがあります。

 

素朴で、異国人であろうとおもてなしの心を失わない日本人の姿は、100年前から健在でした。カーンとデュテルトルが訪れた旅館のウェイトレスは、床に膝まずいて二人をおもてなしました。そのへりくだる接客の姿勢に、カーンとデュテルトルが感激したのはいうまでもありません。日本人の気高い精神と美しい民族性、異文化を許容する大らかさはカーンを虜にし、死ぬまで日本びいきを貫きました。

 

カーンは日本へ投資することで財を築き、一実業家として名をはせました。日本とのビジネスを成功させる傍ら、自宅に日本庭園につくるほど、日本文化に傾倒しました。彼は地球映像資料館の構想のため、世界約50か国へカメラマンを派遣し、72,000点以上のカラー写真を撮らせ収集しましたが、中でも日本で撮影した写真や映像を重要視したといわれます。

 

日本旅行の際に撮影された写真は実に多彩ですが、庶民の生活を切り取った素朴なもの以外にも、有力大臣や皇族との交流を収めたフィルムも紹介されています。日本財界に強い影響を与えたカーンは、総理大臣経験者でもある大隈重信邸を訪問し、大隈本人を撮影した貴重な写真を残しました。また、明治の財界人であり、慈善事業などでも大いに活躍した渋沢栄一との交流写真、または、北白川宮家の日常を映した写真もあり、当時の皇族たちの生活風景がうかがえる貴重な文化的資料ともいえます。

 

「地球映像資料館」の2度目の取材旅行で同行したステファン・パセは、京都で風雅な生活を送る芸者の姿を多く写真に収めています。フィルムに収まったいたいけな少女たちは、厳しい芸の世界に生きているといった暗いイメージはなく、華やかで、自信に満ち溢れ、闊達として生き生きした表情を見せています。田舎の庶民の素朴な生活と風景を撮り続けたデュテルトルに対し、パセは京都の世界で生きる芸者に興味を覚え、その写真を多数残しました。パセは、まだ十代のあどけない少女を映しだすことで、一千年以上の歴史を誇る京都の文化性を切り取ろうとしたのかもしれません。

 

カーンに同行したカメラマンが撮影した写真は、いずれも戦前の日本です。ありのままの、飾らない日本人の姿がそこに活写されています。戦前の日本といえば、何かと暗いイメージで語られがちです。しかし、この動画で紹介されている、写真に収められた当時の日本人の素顔を見てみると、今の私たちとほとんど変わらない、異人であろうとおもてなしする、争いを好まぬ平穏な人たちであることが分かるはずです。

動画の中で、こんなナレーションが流れます。カーンが地球映像資料館を設立した目的について、「どこの国の人間もみな同じであることを証明したい」。民族や文化、宗教の違いはあれど、そこにはどこも変わらぬ命の営みがある。そういう普遍的な真理の前には、いかなる争いも無力である。静かに流れる写真の行間からは、そんなメッセージが読み取れなくもありません。

 

カーンがこの世を去って70年以上が経過しましたが、今なお地球上では民族間の対立や宗教を巡る紛争、貧困や政治の腐敗から起きる内戦などが後を絶ちません。戦後70年、平和を享受してきた日本が今、できることは何か、カーンが残した写真とメッセージを紐解くことで、その答えが見つかるかもしれません。

 

 

□田中伸暁

政治・歴史・文化・社会問題を中心にライター活動しています

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