日本における児童虐待と性的虐待

田中伸暁


暗い部屋の女性

 

1993年に出版された内田春菊の問題作「ファザーファッカー」。近親相姦を真正面から取り上げることで、家庭内モラルの崩壊という問題が社会に浸潤していることを訴えかけた。しかし、日本社会の実態はこの小説の内容をはるかに凌駕しているかもしれない。

 

≪児童虐待に占める性的虐待の割合≫

平成12年に「児童虐待の防止に関する法律」が施行され、18歳未満の児童に対する保護者の虐待を予防・監視・通報する体制が整った。しかし、児童虐待の相談件数は法律の施行からずっと右肩上がりで、平成24年度における児童虐待相談の対応件数は66,701件。統計が始まった平成2年度の6倍以上という件数である。

 

年々増え続ける児童虐待だが、その内訳をみると、身体的虐待が35.3%、ネグレクトが28.9%、心理的虐待が33.6%、そして性的虐待が2.2%という調査結果である。

 

このデータだけ見ると、性的虐待は他の虐待に比べ、極端に少ないといえる。しかし、これは単に表面化していないだけで、「実際にはこの数値の10倍以上の被害がある」という専門家の意見もある。

 

確かに、性的虐待という特性上、その実態はベールに覆われやすい。自分を守ってくれる存在のはずの親から人倫にもとる行為を受け、辱められたショック、そしてその事実を世間に向かって告白する勇気は相当に重大で深刻な行為である。

 

冒頭に紹介したファザーファッカーの主人公は、家族の崩壊を防ぐために自分が犠牲になった。世の中の、性的虐待の被害にあえぐ被害児童も、そうした人身御供的な役割を背負わされている側面も否定できない。

 

≪性的虐待のとらえ方。欧米と日本の違い≫

児童虐待の中でも特異な位置を占める性的虐待。この問題のとらえ方について、欧米と日本ではどう違うのだろうか。

 

まず、日本では性的虐待とは、実親や義理の親、または里親などの保護者が子に与える行為というふうに認識されている。実際、親以外の教師や一般の大人が児童に対して性的な暴力をふるった場合、ニュースなどでは「強姦」「猥褻」という言葉が躍る。虐待とは、親が子になす行為に特化して使用される傾向にある。

 

これに対し、欧米の考えは、加害者は親に限らず、だれでも児童に対してその優位的立場を駆使して危害を加えれば虐待行為と見なされる。つまり、虐待行為を親に特化しないことで、「広く社会の中における弱者」という地位を児童に与え、性的虐待を捉えることで、対策や救済の幅が日本より広がっているという見方もある。

 

≪日本における性的虐待の取り組み≫

日本において、性的虐待問題はどういう経緯をたどってきたか。

 

よく、家族の崩壊という問題は平成になって顕著となってきたイメージがあるが、個別具体的な事件を見ていけば昭和の時代からそういう問題は存在した。有名なのが昭和43年に栃木で発生した娘による実父殺害事件である。この事件は娘が14歳の時より実の父親から日常的に強姦され、5回妊娠出産、6回の人工中絶に見舞われたというおぞまし事件である。

 

15年にわたって実父から耐え難い性的虐待を受け続けた娘は、結婚相手が見つかった際、その旨を父に告白した。すると父は逆上し、娘を押さえつけて強姦しようとした。わが身の危険を感じた娘は父の首に紐をかけて絞殺した。

 

通常、娘は尊属殺人罪の規定により、無期懲役もしくは死刑に処せられる身であったが、「親のみを特別に扱うことは法の下の平等に反する」という違憲判決と、度重なる性的暴行を受け続けたことに対する情状酌量と正当防衛が認められ、執行猶予付きの判決が下された。

 

娘は実父の鬼畜のような所業に15年も耐え続け、服従してきた。加害者である父と、被害者である娘の構図は何であろうか。個別の事件を一般化すべきではないけれど、この事件の背景には、親は子に逆らえないという儒教精神の影響を色濃く受けた日本の伝統的価値観と、家父長制によって支えられてきた家族主義という側面が横たわっているという見方は無視できないのではなかろうか。

 

そんな事件が起きても、日本の中で児童に対する性的虐待を直接取り締まるような法律は生まれなかった。この事件は極めて特異な事件として時代の流れの中で風化したのかもしれない。しかし、戦前から存在した貧困による「娘の身売り」などが存在した歴史的事実を鑑みれば、「子供は親の所有物」という考えがなかったとはいえない。その悪しき価値観の中で栃木の忌まわしき事件は発生したといえなくもないか。

 

≪児童を守るためにできること≫

栃木の尊属殺人が発生しても、日本では性的虐待、もしくは児童虐待を厳しく取り締まるような法律や体制は生まれなかった。大きく潮流が変わったのは、1990年に国連で発効された「児童の権利に関する条約」である。この条約の主眼は、児童を保護の対象でなく、権利の主体としている点である。児童に対して社会におけるさまざまな権利の保有を認めるということは、親の子への権利を制限することにもつながった。1994年にこの条約を発効した日本でも、「子は親の所有物ではない」という大きな価値基準の転換を迫られることになり、その流れの中で児童福祉法の改正や、児童虐待防止法の施行が位置づけられるという見方もできなくはない。

 

子どもの権利を守るという世界的な潮流の中で、日本においても児童虐待から子供たちを守る意識の向上と取り組みが芽生え、法整備も進んできた。しかし、児童虐待は年々増え続け、その中でも性的虐待はどれくらいの規模で起きているのか、実態解明がしづらい現状にある。こうした状況を打開する方法はないのだろうか。

 

筆者が提言したいのは、親による性的虐待を直接取り締まる法律を作るというものだ。児童虐待防止法は、社会保障法であって刑法ではない。児童虐待が発生したときの通告義務や、虐待した保護者への指導義務が課せられているが、刑事罰を科すような内容ではない。

 

ドイツには、親という地位を利用した子どもへの性的暴行を取り締まる法律がある。家庭内における児童への虐待は、その密室性や隠ぺい性、親と子という関係性を考慮して一般の虐待行為とは峻別されているというわけだ。日本においては、例えば尊属殺人が法の下の平等に反するという意味で違憲とされた。親だけを特別罪で裁く法律の成立は憲法上、困難が予想されるが、法律は理念ではなく実効されて意味を持つという概念にのっとり、検討の余地はあると考える。

 

ファザーファッカーの主人公は、自分の意志で最後は家を飛び出し、家族を捨てる。子や親にとってもこうした自立の形は不幸といえる。国の不作為で家族の不幸をこれ以上増やしてはならない。

 

 

 

□田中伸暁

政治・歴史・文化・社会問題を中心にライター活動しています

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コメント: 3
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