介護保険制度における保険者への支援

斉藤みちる


保険証

 

日本の社会保障の中心的な制度は、社会保険とよばれる方式で運営される年金保険、医療保険、労働保険、そして介護保険です。

 

保険者

■介護保険制度のねらい

1997(平成9)年に介護保険法が制定され、2000(平成12)年4月から施行されたことで、介護サービスの利用システムが大きく変化しています。

 

老人福祉法と老人保健法の制定と改正を重ねたものの、在宅福祉の包括的なサービス整備は立ち遅れていたため、介護保険制度の創設によって施設、在宅の介護の提供体制の整備が進められることとなりました。

 

介護保険制度では、幅広い国民が公平な基準で介護サービスを利用できることを目指しています。それを実現するための費用を、国民が納得して負担することができるよう、新たな方法が構築されています。「要介護制度」を審査判定することにより、高齢者がどのような介護度合いであるかを認定します。その介護度合いに応じて利用できるサービスの種類や量が決められており、本人や家族の希望を尊重した介護サービス計画(ケアプラン)に基づきサービスを利用する方式になりました。

 

施設サービスにするか、在宅サービスにするか、在宅サービスの場合はどのような介護サービスを組み合わせて利用するかといったサービスの選択や利用状況の管理を行います。こうした一連の経過はケアマネジメントとよばれます。

 

■市町村を保険者とする理由

介護保険法3条で、介護保険の保険者は、市町村及び特別区(以下、市町村という)とされています。保険者である市町村は、法的強制力によって、被保険者を加入させて保険料を徴収するとともに、保険事故が起こった場合には被保険者に保険給付(介護サービスの提供)を行うこととなっています。また、保険料収入や国からの負担金などを財源として介護保険事業の運営を行います。

 

市町村を保険者として理由としては、①市町村のこれまでの老人福祉・老人保健事業の実績、介護サービスの地域性・地方分権の流れを踏まえると、給付主体として市町村が適当であること、②保険料の設定・徴収・管理は、給付主体があわせて行うことが望ましいこと、③財政主体も市町村にすると、ニーズの地域特性・地域ごとのサービス水準の違いや寝たきり予防など市町村による努力が保険料設定に反映しやすいことなどになります。

 

このような理由をもって、住民に最も身近な基礎的な地方自治体である市町村が保険者として適当とされたのでした。

 

■保険者に対する重層的な支援

市町村における保険財政の安定化、円滑な事務処理の実施の確保を図るために、国、都道府県、医療保険者(次に説明します)などが市町村を重層的に支える仕組みが講じられています。これは、市町村を保険者とした場合、①財政単位が小規模となるため、財政が不安定となるおそれがあること、②要介護認定、保険料聴取、財政運営の事務処理などが困難な場合も想定されること、③保険料水準の格差が市町村間で大きくなる可能性があることなどを踏まえたものとなっています。

 

※医療保険者とは、医療保険事業を運営するために保険料(税)を徴収したり、保険給付を行う実施団体をいいます。 具体的には、国民健康保険の場合は市町村又は各国保組合、後期高齢者医療制度の場合は都道府県単位に設置されている後期高齢者医療広域連合となります。 社会保険等の医療保険者は、お勤めの事業所等にご確認ください。

 

介護保険法では、介護保険事業の健全かつ円滑な運営のために、市町村(保険者)に対して、国は必要な各般の借置を講じ、都道府県は必要な助言及び適切な援助を行い、医療保険者は協力しなければならないとされています。

 

このように、介護保険制度においては、市町村を保険者(制度の運営主体)としながらも、国、都道府県、医療保険者などが重層的に支援する構造になっています。

 

■介護保険事業の運営の広域化

被保険者の少ない小規模保険者の運営の安定化・効率化を図る観点から、地方自治法の定める広域連合、一部事務組合の制度や介護保険法に定められた市町村相互財政安定事業、要介護認定事務の共同実施などの方法が活用されています。

 

財政規模の小さい市町村の財政単位を広域化して、財政運営を安定させ市町村間の保険料水準を均衡させるための事業として、「市町村相互財政安定化事業」があります。

 

保険と福祉の統合や2000(平成12)年の介護保険法施行に伴い、広域連合・一部事務組合・市町村相互財政安定化事業などで、①介護保険の要介護認定、②要支援認定・更新、③老人福祉計画・介護保険事業計画の策定、④保険料の決定、⑤会計事務などを実施する動きが活発化しています。

 

小規模な町村においては、財政規模や職員の状況などの点で、専門的ニーズに対応することが困難であるため、市町村が広域で連合して介護保険の事務を処理することができるものとなっています。

 

保険者の役割

■概説

市町村は、要介護認定を行ったり、保険料を徴収するほか、実際に給付する介護サービスを決定・実施するなどの運営上重要な役割を担っています。つまり、①要介護認定については、コンピュータや介護認定審査会の判定を最終的に申請者に通知する役割を担っている。②保険料の徴収については、市町村が徴収するのは、第1号被保険者の保険料の一部についてです。第2号被保険者の保険料については、各医療保険の保険者が徴収した上で、最終的に各市町村に配される仕組みになっている。③要介護認定を受けた人に給付する介護サービスの基盤を整備するのも市町村の役割です。さらに、地域支援事業を実施したり、地域包括支援センターを設置するほか、地域密着型サービスの事業者の指定・指導などを行うのも市町村となります。また介護保険の給付費も負担しています。

 

■保健機能の強化

2005(平成17)年の介護保険法改正によって、保険者機能強化の観点から、市町村のサービス事業者に対する権限などの見直しが行われるとともに、市町村の事務負担の軽減と効率化を図る観点から、行政事務の外部委託に関する規定の整備が行われました。

 

保険者のサービス事業者に対する権限が強化され、市町村はサービス事業者への立入調査などを行うことができます。そして、指定取消要件に該当したサービス事業者について、都道府県へ通知することも新たな機能として加えられました。サービス面への関与として市町村は、地域密着型サービスに対する指定・指導・監督や、都道府県による事業者の指定に対する意見の提出を行うことができます。

 

さらに、市町村の事務負担の軽減と効率化を図る観点から介護保険業務に精通し、公正な立場で事業を実施できる法人に認定検査を委託することができます。

 

また、市町村は、高齢者の暮らしを支える役割を果たす総合的な機関として「地域包括センター」を設置することができます。地域包括支援センターは、地域における介護相談の最初の窓口となる施設です。その主要な業務には、包括的支援事業(総合相談支援業務、権利擁護業務、包括的・継続的ケアマネジメント支援業務、介護予防ケアマネジメント業務)や指定介護予防支援事業などがあります。

 

2014(平成23)年の同法改正によって、定期巡回・随時対応サービスの創設、高齢者の住まいの整備、認知症対策の推進などが行われています。2014(平成26)年の同法改正では、地域包括ケアシステムの構築と費用負担の公平化を図ることなどを目的としています。

 

■市町村が行う事務の整理

市町村が行う介護保険制度の主要な事務は、次のように整理できます。

    被保険者の資格管理に関する事務

誰が被保険者かを把握し管理する。

・被保険者の資格管理

・被保険者台帳の作成

・被保険者証の発行・更新

・住所地特例の管理など

    要介護認定・要支援認定に関する事務

介護認定審査会を設置し、介護を必要とするかどうかの認定事務を行う。新規の認定調査は、原則市町村が行う。

    保険給付に関する事務

要介護者や要支援者と認定された人に対し、制度に基づいた保険給付を行う。

・介護報酬の審査・支払

・被保険者が居宅サービス計画の作成を居宅介護支援事業に依頼する旨の届出の受付など

・償還払いの保険給付(特例居宅介護サービス費、福祉用具購入費、住宅改修費、高額介護サービス費等)の支給

・区分支給限度基準額の上乗せ及び管理

・種類支給限度基準額の設定

・第三者行為求償事務

    サービス提供事業者に関する事務

・指定地域密着サービス事業、指定地域密着型介護予防サービス事業、指定介護予防支援事業の人員・設備・運営に関する基準などの設定

・地域密着型サービス事業者、地域密着型介護予防サービス事業者、介護予防支援事業者に対する指定・指定更新・指導・監督

・上記以外のサービス提供事業者への報告の命令と立入検査など

・都道府県知事が介護保険施設などの指定を行う際の意見提出

・指定居住サービス事業者の指定についての都道府県知事への協議の要求

    地域支援事業及び保健福祉事業に関する事務

・地域支援事業の実施

・地域包括支援センターの設置など

・保健福祉事業の実施

    市町村介護保険事業計画に関する事務

・市町村介護保険事業計画の策定・変更

    保険料に関する事務

65歳以上の被保険者の保険料を決定し、徴収する。

・第1号被保険者の保険料率の決定など

・保険料の普通徴収

・保険料の特別徴収に係る対象者の確認・通知など

・保険料滞納被保険者に対する各種措置

    介護保険制度の運営に必要な条例・規則の制定・改正などに関する事務

    介護保険の財政運営に関する事務

・介護保険特別会計の設置・管理

・公費負担の申請・収納

・介護給付費交付金、地域支援事業支援交付金の申請・収納

・財政安定化基金への拠出、交付・貸付申請、借入金の返済

 

市町村が条例で定める主要な事項

介護保険の事務に関して、介護保険法には、下記の基本的な事項が規定されている。「被保険者の資格」、「要介護認定」、「保険給付」、「保険料の賦課・徴収の方法」。

 

しかし、「支払限度基準額の上乗せ」、「市町村特別徴収」、「保健福祉事業」、「保険料」等の地域の実情に応じて定めることが適当なものについては、各市町村の条例に委任されることとなっています。

 

介護保険法上、市町村が条例によって規定すべきとされている主要な事項は、①介護認定審査会の委員の定数、②市町村特別給付、③区分支給限度基準額の上乗せ、④種類支給限度基準額の設定、⑤福祉用具購入費支給限度基準額の上乗せ、⑥住宅改修費支給限度基準額の上乗せ、⑦第1号被保険者に対する保険料率の算定、⑧普通徴収に関わる保険料の納期、⑨保険料の減免または徴収猶予、⑩その他保険料の賦課徴収などに関する事項、⑪科料に関する事項、⑫地域包括センターの基準等となっています。

 

都道府県の役割

■概説

都道府県の責務については、介護保険事業の運営が健全かつ円滑に行われるように、必要な助言及び適切な援助をしなければならないとされていますので、広域的な地方自治体として、市町村に対する支援を行うことが求められます。(介護保険法5条2項)

 

都道府県は、各市町村を調整する役割を果たしています。特に介護保険財政の広域化に伴って、各市町村で用いるべき保険料の基準を提示することで、市町村間の格差をなくし、調整を図ることが期待されています。

 

このように、市町村では担うことのできない、より広範囲の業務を都道府県が受持つこととされています。

 

■都道府県が行う事務

都道府県が行う主要な事務を整理すると次のようになります。

    要介護認定・要支援認定業務の支援に関する事務

・市町村による介護認定審査会の共同設置などの支援

・要介護認定などに係る審査判定業務の地町村からの受託及び受託した場合の都道府県認定審査会の設置

・指定市町村事務受託法人の指定

    財政支援に関する事務

・保険給付、地域支援事業に対する財政負担

・財政安定化基金の設置・運営

・市町村相互財政安定化支援事業の支援

    サービス提供事業者に関する事務

・指定居住サービス事業、指定介護予防サービス事業、介護保険施設等の人員・設備・運営に関する基準の設定

・居宅サービス事業者、居宅介護支援事業者、介護保険施設、介護予防サービス事業者に対する指定(許可)・指定更新・指導・監督など

・市町村が行う地域密着型特定施設入居者生活介護の指定に際しての助言・勧告

    介護サービス情報の公表に関する事務

・介護サービス事業者の公表及び必要と認める場合の調査

・介護サービス情報の公表に関する介護サービス事業者に対しての指導・監督

    介護支援専門員に関する事務

・介護支援専門員の登録・登録更新

・介護支援専門員証の交付

・介護支援専門員の試験及び研修の実施

    介護サービス基盤の整備に関する事務

・都道府県介護保険事業支援計画の策定・変更

・市町村介護保険事業計画作成上の技術的事項についての助言

    その他事務

・介護保険審査会の設置・運営

・市町村に対する介護保険事業の実施状況に関する報告請求

・医療保険者が行う介護給付費・地域支援事業支援給付金の納付関係業務に関する報告聴取・実地検査

・社会保険診療報酬支払基金が行う介護保険関係業務に関する報告徴収・実地検査

・国民健康保険団体連合会が行う介護保険事業関係業務に関する指導・監督等

 

国の役割

■概説

前に記したように、介護保険制度の保険者は市町村ですが、国・都道府県・医療保険者・年金保険者などが、市町村を重層的に支える仕組みになっています。そのため、国は、介護保険事業の運営が健全かつ円滑に行われるように保健医療サービス及び福祉サービスを提供する体制の、確保に関する施策・措置を講じなければならないとされています(介護保険法5条1項)。

 

■事務の整理

国の主要な事務には、次のようなものがあります。

    制度運営に必要な各種基準などの設定に関する事務

・要介護認定基準、要支援認定基準の設定

・介護報酬の算定基準の設定

・区分支給限度基準額の設定

・サービス提供事業者の人員・設備・運営などの基準設定

・第2号被保険者負担率など

    保険給付、地域支援事業、都道府県の財政安定化基金等に対する財政負担

    介護サービス基盤の整備に関する事務

・市町村介護保険事業計画・都道府県介護保険事業支援計画のもととなる「介護保険事業に係る保険給付の円滑な実施を確保するための基本的な指針」の策定

・都道府県計画の作成上重要な技術的事項についての助言

・市町村計画・都道府県計画に定められた事業の円滑な実施のための情報提供・助言・援助

    介護保険事業の健全かつ円滑な運営のための指導・監督・助言等に関する事務

・市町村に対する介護保険事業の実施状況に関する報告請求

・都道府県・市町村が行うサービス提供事業者などに対する指導・監督業務などについての報告請求・助言・勧告

・社会保険診療報酬支払基金がする介護保険関係業務に関する報告徴収・実地検査

・国民健康保険団体連合会が行う介護保険事業関係業務に関する指導・監督等

 

介護認定審査会

市町村には、要介護認定等に関する審査・判定を公平かつ公正に行うため「介護認定審査会」が設置されています。さらに、効率的な事務処理や委員の確保などのために市町村が共同して介護認定審査会を設置することもできます。この際に、都道府県は市町村間の調整や助言などを行います。

 

介護保険事業計画

介護保険事業計画とは、給付対象となるサービスの種類ことの見込み量、それを確保するための対策など、介護保険事業運営の基礎となる現実的な事業計画のことです。

 

その目的は、介護保険給付の安定的な提供のために計画的に基盤整備を促進することにあります。国(厚労省大臣)が定める基本指針に従って、市町村は3年を一期とする市町村介護保険事業計画を、都道府県は3年一期とする都道府県介護保険事業支援計画を策定しています。

 

これら計画を立案するにあたって、老人福祉計画と一体のものとして作成し、医療計画や地域福祉計画などとの調和を保ち、被保険者の意見を反映させることが求められます。

 

  

 

 斉藤みちる プロフィール

社会活動家/「みんなの社会科」管理人

その傍らオラクルカードを中心とした占いもしております。ヒット記事『陸上自衛隊レンジャー訓練』。福祉力検定3級。

Twitter @tikyuuhattenn