教育への公的支出が少子化対策の秘策? 子共たちへの投資が必要なわけ

斉藤みちる


 

最近の日本では、公的な教育費支出の対GDP比と、出生率との関係が議論されるようになっています。

 

その背景には、わが国でこれまでに実施されてきた少子化対策が期待される効果を持たなかったことと、教育費の公的支出予算を拡大すべきである、という意見が多くなってきたことがあげられます。

 

今回は、出生率低下の原因を探り、わが国が検討すべき少子化対策について見ていきます。

 

公的教育費支出と合計特殊出生率との相関

1989年の出生率が、丙午の1966年の水準すら下回り1.57を記録しました。いわゆる「1.57ショック」。

 

これにより、少子化の問題が強く意識されるようになってきましたが、そのショックから今までの間に実施されてきた政策の効果は、期待に答えるものにはなりませんでした。よって現在でも、日本の出生率は著しく低いままとなっています。

 

一般に、合計特殊出生率を決定づける要因としては、結婚及び離婚、ならびに婚外出生や、女性の労働が思い浮かぶかと思います。しかし、ヨーロッパを対象とした国外の調査では、1975年から1999年の間に、それらの指標と出生率との関係が変わってきたことが報告されています。

 

1970年代までは、初婚率が高いことや女性の労働力が低いことが出生率を高める要件であり、それらの指標と出生率には明らかな相関が見られました。ところが、1990年代になるとそうした相関関係も崩れてきます。

(Francesco C. Billari and Hans-Peter Kohler (2004), Patterns of Low and Lowest-Low Fertility in Europe, Population Studies, Vol. 58, No. 2, pp.161-176)

 

そのため、国際的な少子化の要因をひとつの指標で評価することはできず、複合的な要因を考慮しなければなりません。

 

国際比較を教育費のみで行うことは難しい。しかし最近では、教育費と出生率の関係について議論されることが増えてきました。これには、少子化対策に成功したフランスが家計での教育費の負担を減らしてきたことや、給付型奨学金の実施が、わが国でも検討されることが多くなってきた経緯があります。

 

子供たちへの投資は必要なのでしょうか。女性が一生の間に産む子供の数の平均を表す、合計特殊出生率と公的な教育費の支出との相関についての国際比較を以下に見ていきましょう。

 

(合計特殊出生率の定義は例えばhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%88%E8%A8%88%E7%89%B9%E6%AE%8A%E5%87%BA%E7%94%9F%E7%8E%87を見よ)

 

下図は、30ヶ国に関する合計特殊出生率と公的教育支出額の対GDP比の相関図となります。

 

図 教育費支出と合計特殊出生率
出典http://tmaita77.blogspot.jp/2016/05/blog-post_7.html?spref=tw

 

舞田敏彦さんの計算によれば相関係数は0.439であり、この相関係数自体は通常、相関があるとされる値です。

 

舞田さんの考察では本データが5%水準で相関が有意であると述べられていますが、より正確には標本数30において有意水準2%のとき、限界水準は0.42ですので、有意水準2%で相関があると言えるでしょう。(http://www.biwako.shiga-u.ac.jp/sensei/mnaka/ut/rtable.html)

 

有意水準2%であれば、一般的な社会学的調査の観点から言えば、十分な精度で相関が確認されたといってよいものと思われます。

 

教育費と出生率との因果関係

この相関図から、舞田さんは

 

教育への公的支出額の対GDP比は、日本は3.5%で,OECD加盟国の中で最下位です。これが教育費の高騰をもたらし、教育機会の不平等、さらには出生率の低下を引き起こしているといえます。データを示すまでもなく、夫婦が出産をためらう最大の理由は「教育費が高いこと」です。

 

と結論付けました。

 

もちろん、このデータ自体から舞田氏が主張する教育費と出生率との因果関係が、証明されるものではありません。舞田さんの主張は、この相関図を支持する仮説のひとつに過ぎないとみなされるものです。

 

つまり、データを公平に解釈するのならば、舞田さんが主張するような教育費の負担が国際的な普遍性を持って出生率の低下を招く可能性も否定できないですが、一方で、この相関がいわゆる擬似相関であって、何らかの別の要因が出生率の低下と公的教育支出の減少を同時に招いている可能性も否定できないものです。

 

ところで、「出生率が高いために年少人口が増え、教育を受ける人口が多くなることで教育支出も増える」という因果関係の主張も散見されます。

 

図 合計出生率が高い国では、年少人口が総人口に占める割合が大きくなる
出典http://totb.hatenablog.com/entry/2016/05/07/202832

 

そこでは、合計特殊出生率と年少人口との相関が示されています。年少人口が多ければ必然的に教育支出も増加せざるを得ないので、出生率が教育支出を変化させるという舞田さんとは、逆の因果関係が主張されています。

 

この論者は端的に合計特殊出生率が高いことと年少人口が多いことを同値とみなしているのですが、もちろんそのような単純関係ではありません。なぜなら年少人口は、この15年間程度の出生率の積算によって決定されるためです。

 

そこで、主要な国々の合計特殊出生率の推移を見てみましょう。

 

図 主な国の合計特殊出生率の動き(欧米)
出典http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w-2014/26webhonpen/html/b1_s1-1-5.html

 

確かに、ここ15年ほどドイツ、イタリア、日本の合計特殊出生率は低下したままです。そのため、15歳未満の年少人口は比較的少ないと考えられる。これが教育支出を減少させていることは十分に考えられる。

 

ただし、この15年間の合計特殊出生率の低下の要因が、この15年間の教育支出の少なさに起因することも可能性として考えられます。つまり、年少人口の減少が教育支出を減少させる直接の原因だとしても、教育支出の不足が合計特殊出生率を低下させる要因になり得ることは否定できないということになります。

 

以上のデータ解釈上の注意点はあるものの、30ヶ国で出生率と公的教育支出との間に相関があること自体はデータから明らかであります。社会システムもそれぞれ異なる国々について、このような相関が見られることは特筆すべきことです。

 

単一期間の散布図だけでなく、数年間の散布図を作成して確認する必要はありますが、このような結果が毎年見られるようであれば、公的教育支出の対GDP比が出生率を表す一つの国際的な指標になるといって良いでしょう。

 

出産を諦める要因についてのアンケート結果

繰り返しになりますが、先に見た相関図だけでは、出生率と公的な教育費の援助との因果関係までを論ずることはできず、これがいわゆる擬似相関なのだという可能性も否定されるものではありません。

 

ただし、舞田さんの仮説を支持するアンケート結果が存在する。教育費の負担と出産の意思決定との関係を示す点で、このアンケート結果は先の教育費と公的教育支出との因果関係を部分的に支持するものとなっています。

 

国立社会保障・人口問題研究所は、予定する子どもの数が理想を下回る理由についてのアンケート調査を行っています(第14回出生動向基本調査http://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou14/chapter3.html)

 

この調査によると、下図に示すように、2010年において、夫婦の理想子ども数は2.42人であり、実際の子ども数は2.07人です。

 

図 調査別にみた、平均理想子ども数と平均予定子ども推移
出典http://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou14/chapter3.html

 

つまり、気持ち的にはもっと出産したいが、実際にはそれを控えているということです。

 

さらにアンケート結果は、出産を控える要因がおもに「子育てと教育費」であると裏付けられています。下図はそのアンケート結果です。

 

表 妻の年齢別にみた、理想の子ども数を持たない理由:第14回調査
出典http://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou14/chapter3.html

 

同研究所の考察を引用すると、

 

予定子ども数が理想子ども数を下回る理由として最も多いのは「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」であった。とりわけ30歳未満での若い世代ではこうした経済的理由を選択する割合が高い。

 

と結論付けられています。

 

まとめると、肉体的な理由以外に、経済上の問題が出産を妨げる要因となっており、その経済問題のひとつに教育費の高さが挙げられるということです。

 

ここでまた注意を要するのですが、アンケートの項目では、教育費とその他の子育ての費用が区別されているわけではありません。そのため、教育費以外の子育てに必要な負担も、出産を妨げる要因になっていると考えるのが妥当です。

 

ただし、総じて子育てにかかる負担のなかでも教育費は大きな割合を占めるため、教育費の高さが予定子ども数を下げる要因になっているということは十分考えられます。

 

都道府県別教育費と出生率との相関

さて、舞田さんが作成した相関図からわが国の少子化対策について考察する前に、わが国における教育費と出生率の関係を吟味すべきでしょう。

 

家計での教育費負担は、都道府県別に大きく異なるので、都道府県別の教育費負担と出生率との相関が見出されれば、教育費が出生率に影響を与えるという仮説に支持を与えるひとつの有力な根拠となるでしょう。

 

下図は、47都道府県の教育費負担と合計特殊出生率との相関図です。

 

図 教育費の高さと合計特殊出生率の相関
出典http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1570.html

 

東京、神奈川、千葉、埼玉など首都圏の教育費は高く、出生率は低いです。一方で、九州、東北、山陰などは教育費が比較的安く、出生率が高くなっています。

 

標本数が47の場合、有意水準1%における棄却限界は0.372となります。相関係数の2乗が0.445ですから、相関係数は-0.67程度です。よって1%有意水準で相関があります。(一般に、0.7以上あるいは-0.7以下の相関係数は、強い相関と呼ばれる。上図は、これに近い水準である)

 

もちろん、この結果自体が擬似相関であるという可能性も否定はできません。合計特殊出生率が低い都道府県は、都市部に多く見られます。よって、考えられる別の要因としては、都市部の晩婚化・晩産化によって合計特殊出生率が低下している可能性があります。

 

実際、厚生労働省の調査結果を一瞥しても、都市部ほど晩産化の傾向が見られます。

(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai11/kekka04.html)

 

もちろん、晩産化が出生率を低くする要因であることは十分考えられますが、教育費の負担自体が晩婚化・晩産化を招き、合計特殊出生率を低下させているという可能性も十分考えられます。

 

晩産化と家族関係社会支出の対GDP比

子育てにかかる経済的負担が少子化の原因になり得ることを解説しました。さらには、対GDP比として1.5%程度が家族支援給付として支給されるべきだと考察する文献もあります。(http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/16749603.pdf

 

この観点から、家族関係社会支出の対GDP比と少子化との関係を留意しましょう。後、わが国でも顕著になった晩産化が少子化に与える影響を吟味すべきでしょう。

 

まず、主な国々の初産年齢を見てみます。(http://top10.sakura.ne.jp/CIA-RANK2256R.html

 

日本は30.3歳(2012年)、韓国は30.3歳(2011年)、イタリア30.3歳(2011年)、スウェーデン29.1歳(2010年)、ドイツ29.1歳(2012年)、イギリス27.8歳(2010年)、アメリカ25.4歳(2009年)でした。

 

以上を眺めると、主要な国々においては、初産年齢が高いほど、先にみた合計特殊出生率が高い傾向が見られます。

 

したがって、教育費負担だけでなく晩産化も出生率を低くする要因であると考えることができます。

 

ただし、合計特殊出生率の高いフランスとスウェーデンは例外的に初産年齢が高い。つまり、晩産化が進んでもなお高い出生率を保っている。これは同じく晩産化が進む日本とは大きな違いとなります。

 

実は、このフランスとスウェーデンは、特に少子化問題について大々的な政策を実施した国でもあります。

 

下図は主な国々の家族関係社会支出の対GDPです(2011年)。

 

グラフ 各国の家庭関係社会支出の対GDP比の比較
出典http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/data/gdp.html

 

上図から分かるように、フランスとスウェーデンでは、出産から育児、就学までの大規模な補助が行われています。先述の出生率の推移を見れば分かりますが、この2国は2000年前後から急激に出生率を回復しています。出生率回復のための政策の効果が出てきているように思われます。

 

フランスでは、家族手当が多いだけでなく、出産後もフルタイムで働けるような保育サービスの環境が整っており、3年間の育児休業や労働時間短縮も可能となっています。また、第3子以上の子を持つ家族に有利な政策設計をとっています。

 

初産年齢が低いイギリスも、手厚い家族関係社会支出を設けています。ワークライフバランスを掲げており、子共を持つ親の雇用形態を柔軟なものにし、出産給付金や、リーマン・ショックが原因で廃止されたが「チャイルド・トラスト・ファンド」(大学費用への充填を目的とした大規模な貯蓄援助)など、あらゆる面で少子化対策を図っています。

http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/promote/se_4/siryo3.html

 

2人目の子共をもうけると、毎月およそ115ユーロの支給を受けられます。3人目以降はさらに給付が加算されます。3歳までの児童手当もあり、公立であれば高校までの授業料も無料です。

 

育児休業制度も充実しており、子共が3歳になるまでの休業が可能で、要件を満たせば乳幼児保育手当も支給されることとまっています。企業に対しても、母親の休職前の地位を復職後も保証することを義務付けています。

(http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/research/cyousa17/kokusai/pdf/k_11_1.pdf)

 

また、国全体として、育児施設や託児所も充実させています。

 

こうして出産・子育てと就労の両面からの環境整備を整えたことが、フランスの少子化対策成功の秘訣だったのでしょう。

 

スウェーデンでも出産・子育てと就労の両面からの環境を整備してきました。児童手当を充実させ、育児休業の収入補填制度を開始しました。

 

アメリカは家族関係社会支出の対GDP比は少ないが、先述のとおり、初産年齢が非常に低く、出生率が高い。これはベビーシッターなどの民間の保育サービスが充実していることや、女性にとって、子育ての前後での職業キャリアの継続がしやすい環境が整っていることが考えられます。また、夫の家事の参加が多いなど文化的な要因も関係するでしょう。

 

一方、ドイツでは、育児手当などの現金給付は手厚いが、先述のとおり、出生率は低いままです。この要因のひとつとして、保育所の整備がEU諸国の中でも比較的遅れているためであると一般に考えられています。ドイツでは給食サービスが不足しているなどの要因で、母親のフルタイムでの就業が困難となっています。

 

イタリアでは家族関係社会支出が少ないことに加え、文化的な要因が少子化の原因とも言われています。

 

このように、出産・育児手当、育児休暇制度などにより、子共を持っても経済的に負担とならない環境を整備し、出産・子育てと就労の両面での政策設計を行うことが、少子化対策には重要な視点です。

 

婚外子の割合と出生率との関係

保育支援と文化的背景について注目した場合、もう一つの重要な点として、婚外子の問題があります。

 

下図に示すように、合計特殊出生率が高い国々は、婚外子の割合も多い。

 

グラフ 世界各国の婚外子割合 グラフ 日米の婚外子(日嫡出子)割合の推移
出典http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/1520.html

 

上図から明らかなように、家族関係社会支出の対GDP比が同程度の日米を比較してみても、婚外子の割合は著しく異なっています。よって、婚外子を育てられる環境の整備が少子化対策として重要な目安となり得ると考えられます。

 

フランスとスウェーデンも、婚外子は婚内子と同等の権利を持てるよう法律的な整備がされています。単に子育て支援のための支出を増やすだけでなく、家族制度の文化的な背景を考慮しながら、少子化対策となるような環境整備に努めているものです。

 

フランスでは連帯市民協約、スウェーデンでは同棲法によって、非法律婚を法律婚と同等の権利が持てるように工夫しています。このようにして子共や夫婦の権利を充実させることも出生率を高める要因となっていると考えられます。

(http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/research/cyousa17/kokusai/pdf/k_11_1.pdf)

 

日本が取るべき政策

諸外国との比較からわが国が得られる考察として、出産・子育て及び就労ならびに家族制度や、教育費の観点から、改善すべき点は山積していることといえます。

 

また、イギリス、フランスなど社会システムが、わが国と比較的類似した先進国の政策は、見習うべきところが多い。これらの政策のなかで、わが国で実施不可能なものはないとみるのが妥当でしょう。

 

わが国ではすでに深刻に進んでしまった晩産化を直ちに食い止めることは難しいかも知れないけれども、晩産であっても合計特殊出生率を見事に回復したフランスの政策は見習うところがあるでしょう。

 

わが国では、家族関係社会支出の対GDP比が他の先進諸国と比べて明らかに少ない。託児所等の保育サービスも充実させるべきです。アメリカのようなベビーシッターを急に増やすことはできなくとも、保育関係の労働者の待遇を改善し、保育サービスの充実を図ることは十分に可能です。

 

同時に、女性が出産しても職場での地位、キャリアを損なわないように労働関係の法整備も必要であるし、婚外子や非法律婚の夫婦の権利を婚内子や法律婚と変わらない処遇にすることも有効であると考えられます。

 

また、財務省が言うような、財政赤字を理由として社会保障に回す財源が足りない、という理屈も原理的には存在しません。なぜなら、例えば現在日銀の金融緩和によって株式市場に投入されているマネーだけを見ても毎年3兆円の資金があるからである。財源の不足の問題ではなく、分配のための制度設計と政策実行の問題となります。

 

また、家族関係社会支出の対GDP比は国際的に見ても、少子化に関するひとつの良い指標であると考えられますが、わが国の特徴として、出産・育児費用だけでなく教育費が高額であることがあげられます。

 

アンケート調査の結果から考えても、子育てに関する経済的な懸念が、理想子ども数よりも予定子ども数のほうが少ないことの大きな原因でありましょう。また、婚外子や非法律婚の問題は、現実的には出産を妨げる要因ではあっても、それが要因であると当人が意識すらしていない可能性もあります。そうした意識的面も、政策を論ずるうえでは配慮すべきです。

 

以上をまとめると、諸外国との比較から考えて、出産・子育て及び就労ならびに家族制度や、教育費の環境整備などの、家庭関連支出が、出生率の改善のための鍵であると考えられます。

 

 

 

 斉藤みちる プロフィール

社会活動家/「みんなの社会科」管理人

その傍らオラクルカードを中心とした占いもしております。ヒット記事『陸上自衛隊レンジャー訓練』。福祉力検定3級。

Twitter @tikyuuhattenn