【米軍】光学迷彩・ステルス迷彩の軍事応用の今

斉藤みちる


 

SFの世界で登場する「透明のマント」が、最新テクノロジーによって現実のものになろうとしています。光学迷彩、あるいはステルス迷彩とも呼ばれる技術を応用したマントを着ると、透明人間のように周りからは見えなくなるそんな技術があります。

 

米軍は、目に見えない、敵に見つからない兵士を生み出すための技術として、この光学迷彩に注目しています。

 

今回は、この技術の歴史と最近の動向について紹介したい。

 

情報技術と材料技術を融合した光学迷彩技術

光学迷彩技術には大きく分けて2つの方法があります。そのひとつが、再帰性反射材と情報技術を用いた方法です。

 

再帰性反射材は、入射した光を入射した方向にのみ反射する特殊な素材です。まず、これをマントに塗布します。そして、事前に人間の背景を撮影しておき、プロジェクタでそれをリアルタイムで投影することで、そのマントを着た人間が透けているように見えるという手法となります。

 

この技術は、高度な情報技術と再帰性反射材とを組み合わせることで初めて可能となりました。

 

下の画像は、東京大学先端科学技術研究センターの稲見昌彦氏による実際の開発成果。

 

光学迷彩による「透明人間」の画像
出典http://www.mugendai-web.jp/archives/5365

 

しかし、この技術は軍事応用には不向きでした。あらかじめ背景を撮影しなければならず、プロジェクタも必要だからです。

 

メタマテリアルによる光学迷彩技術

もうひとつの光学迷彩技術は、光に対して負の屈折率を持つ、メタマテリアルという材料を応用したものがあります。通常、自然界にある物質は正の屈折率を持ちますが、負の屈折率を実現することによって、材料自体が背景の光を迂回させて前方に送り出すことができます。

 

この光の迂回によって、物体の前方にいる人物は物体の後方の光を見ることができる。つまり、その物体は透けて見えるというわけです。

 

この原理を利用して、米軍は兵士用の透明スーツを完成させることを目論んでいるものと思われます。

 

メタマテリアル技術の歴史

メタマテリアル技術の始まりは、1960年代後半にロシアの物理学者Victor Veselago氏が発表した、負の誘電率・透磁率を持つ物体の存在の予言からなります。

 

V. G. Veselago: Properties of materials having simultaneously negative values of the dielectric and magnetic susceptibilities. In: Sov. Phys. Solid State. 8, Nr. 12, 1967, S. 2854–2856

V. G. Veselago: The electrodynamics of substances with simultaneously negative values of ε and μ. In: Soviet Physics Uspekhi. 10, Nr. 4, 1968, S. 509-514

 

この原理の実用化へ向けた研究は、比較的最近になります。ロンドン大学の物理学者John Pendry氏は1990年代からこの原理を追究して、2006年に透明マントのための具体的な理論を展開しました。

 

Pendry氏の理論的な研究成果をまとめた論文は、無料で公開されています。

 

JB Pendry, D Schurig, and DR Smith, "Controlling Electromagnetic Fields", Science 312 1780-2, 2006.(http://www.cmth.ph.ic.ac.uk/photonics/Newphotonics/pdf/CloakPap100406.pdf)

 

 

こうした一連の理論研究が、特殊材料として具現化した。2000年に米国デューク大学のDavid R. Smith氏とカリフォルニア大学の研究によってそれは一応の完成を遂げました。これがメタマテリアルの始まりとなります。(http://people.ee.duke.edu/~drsmith/)

 

メタマテリアルは最新テクノロジーの成果であるため、この技術の実際的な応用に関する論文はほとんど一般公開されていない。ただ、無料で閲覧できる次の論文だけでも参考になるでしょう。

 

H. Ichikawa, M. Oura, T. Taoda"Invisibility cloaking based on geometrical optics for visible light", Journal of the European Optical Society - Rapid publications, Vol 8 (2013)

(http://www.jeos.org/index.php/jeos_rp/article/view/13037)

 

この論文を読むだけでも、透明マントがSFの世界の話でも理論上の空論でもなく、現実に実現可能な技術であることを理解できると思います。

 

メタマテリアル技術の軍事応用の動向

米軍は2007年という早い段階ですでに、メタマテリアル技術による兵士用透明スーツの開発に本格的に着手しています。(https://www.wired.com/2007/06/shootthrough_in/)

 

アメリカ国防高等研究計画局の資料を見ると、2007、2008、2009年に毎年500万ドルずつが投入されていることが分かると思います。(http://www.dtic.mil/descriptivesum/Y2008/DARPA/0603764E.pdf)

 

現在でも米軍は、迷彩服メーカーにこの光学迷彩技術を応用した透明スーツを開発させています。カナダの迷彩服メーカーHyperStealth Biotechnology社が先導してこの開発を進めているようです。

 

しかしながら、軍事機密の関係もあり、具体的にどの程度のものが開発されたのか発表はされていません。HyperStealth Biotechnology社のホームページには、イメージ画像しか掲載されていません。

 

メタマテリアル技術のイメージ画像
出典http://www.hyperstealth.com/Quantum-Stealth/
メタマテリアル技術のイメージ画像
出典http://www.hyperstealth.com/Quantum-Stealth/

透明スーツはすでに実用化している可能性がある

イラクにおいて、すでに米軍が光学迷彩スーツで活動したのではないかと囁かれているのを御存じでしょうか?

 

ニュース映像の一部に、透明スーツを着用した兵士が写り込んでいるというのです。その問題の動画を紹介します。

 

【動画】https://www.youtube.com/watch?v=hs7u5TqXIQ4

 

 

下は、問題の動画のキャプチャ画像です。赤丸印の中には、右側から走りこんできた透明の兵士が写っています。静止図なので兵士の姿は分かりづらいですが、実際の動画では赤丸印の中がモヤモヤと歪んでいます。

 

動画のキャプチャ

 

下は、兵士が戦車に近づいていく様子。兵士の背景が戦車になったとたん、白い影のように兵士の姿が浮かび上がっています。

 

動画のキャプチャ

 

さらに次の瞬間では、兵士がそのまま戦車に乗り込もうとする様子が確認できます。

 

動画のキャプチャ

 

まだメタマテリアルの技術は発展段階だとされます。カールスルーエ工科大学のMartin Wegener氏の話では、どのような色の光でも完全に迂回させることができるわけではないらしい。

(https://www.newscientist.com/article/mg22630202-200-us-army-calls-for-ideas-on-invisible-uniforms-for-soldiers/)

 

おそらく、背景の色によって、透明になりやすいものとなりにくいものがあるのでしょう。

 

戦車が背景になったとたんに兵士の姿が浮かび上がってきたのは、そうしたメタマテリアル技術の限界によるものと考えられます。

 

とはいえ、動画で見るかぎり、他の風景に関してはほぼ兵士は透明化している。いずれこうした欠点の大部分も克服されるのかもしれません。

 

 

【終わりに】

 

今回、光学迷彩・ステルス迷彩の軍事応用の歴史と現状について紹介しました。光学迷彩を利用した透明スーツは、2007年頃から本格的に米軍によって開発が進められてきました。

 

現段階でどの程度までその軍事応用が進んでいるか、一般公開された以上の情報を手に入れようとしてもドーン「どぅーわっ」と、弾かれてしまいます。

 

しかし、イラクでの軍事活動においてすでに利用されている可能性は極めて高いです。使用場所によっては肉眼での確認が困難なほどに透明化するスーツが、すでに実現しているのかもしれません。

 

 

 

 斉藤みちる プロフィール

社会活動家/「みんなの社会科」管理人

その傍らオラクルカードを中心とした占いもしております。ヒット記事『陸上自衛隊レンジャー訓練』。福祉力検定3級。

Twitter @tikyuuhattenn